The Remains of Runners ~走者の追憶~

陸上競技の海外記事を中心に執筆します。

2022年オレゴン世界陸上 男子100m覇者 フレッド・カーリー(Fred Kerley)

2022年オレゴン世界陸上

男子100mは予選から圧倒的な力を見せたフレッド・カーリー選手が優勝しました。

全米選手権でも9.7台を2本揃えていたので、今大会は大本命と目されていました。これに割って入れるのは、東京五輪覇者のマルセル・ジェイコブズ(Marcell Jacobs)選手くらいかと思っていましたが 、故障のため準決勝を棄権しました。

ひょっとすると9.6台もあり得るかと思いましたが、準決勝と決勝は少し気温が下がったのか全体的にタイムがいまいち伸びませんでしたね。

www.youtube.com

カーリー選手はもともとは400m専門でしたが、スピード強化の狙いで100mに取り組むようになり、ぐんぐん力をつけた選手です。2021年東京五輪でも銀メダルを獲得しています。

とはいえ、日本ではまだまだ知名度も高くないので、どんな選手なのか気になり調べてみました。(下記、参考記事)

www.theguardian.com

カーリー選手は12人兄弟の家族に生まれ、幼いころは世界中を旅することを夢見ていました。そんな彼が世界チャンピオンになったことについて、"rags to riches tales" (「ぼろ雑巾から長者へ」の意)と表現されていることからも、あまり裕福な家庭でなかったことがうかがえます。

さらに記事を読み進めると、カーリー選手は2歳の時に父が刑務所に入り、母親もいなくなり、叔母の家庭に引き取られたとう、過去が書かれています。

しかし、そんな境遇でもカーリー選手は大勢の兄弟と明るく暮らしていたと述べています。

高校まではサッカー選手を目指していましたが、鎖骨の故障で断念。陸上競技に転向しています。

2019年にはドーハ世界陸上の男子400mで銅メダルを獲得したロングスプリンターは、3年の時を経て、「世界最速」の称号を手にしました。

記録の面でもまだまだ可能性がある選手だと思いますので、これからの活躍にも期待しましょう。

《参考文献》

https://www.theguardian.com/sport/2022/jul/17/fred-kerley-runs-down-a-dream-gold-as-us-men-sweep-100m-at-worlds

(2022年7月18日アクセス)

https://www.youtube.com/watch?v=8KF9cmHSgd8

(2022年7月18日アクセス)

ロベルト・エミアン (Robert Emmiyan) ③番外編

お久しぶりです。この2か月間、中々時間が取れず更新が滞ってしまいました。

 

本年度も宜しくお願い致します。では、記事に入りましょう。

 

 

 

走幅跳で世界歴代4位の記録を持つロベルト・エミアンについては、過去記事で詳しく紹介しました。

 

ロベルト・エミアン (Robert Emmiyan) ① - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

ロベルト・エミアン (Robert Emmiyan) ② - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

 

先日、貴重な映像を見つけたので番外編として捕捉していきます。

 

1990年の大会です。出場者にはカール・ルイスマイク・パウエルもいます。

www.youtube.com

 

0:14~: 痛ましい地震の爪痕が映し出されます。

0:20 Unfortunately, tragedy has been part of my journey to goodwill games. I am from ***, the epicenter of the earthquake that hit Armenia in 1988. I was in Moscow at that time, being treated for a sports injury. As soon as I heard about the earthquake, I **** . It was as if there has been a war like a bomb went off and the whole city disappear. There was just ruins. People were screaming and crying. 

(あいにく、グッドウィルゲームへの道のりは楽ではありませんでした。1988年にアルメニアを襲った地震震源地は、私の故郷でした。その時、私は怪我の治療でモスクワにいました。地震のことを聞くなり、地元に駆けつけました。まるで爆弾が落ちたかのように、町は壊滅していました。ただ瓦礫だけを残して、、、。人々はただ泣き叫ぶばかりでした。)

0:56 My neighbor came over to me and told me "Robert, you are going to have to be a real man. Your father is missing". I looked for my father for 10 days before I found him. I didn't sleep one day. I don't know how I made it through that time. I love my father very much. His death was very hard on me psychologically. My mother was very lucky that she walked out of the house just seconds before it collapsed.

(隣人が私の元へやって来て「あなたの父親が行方不明になっている」と言いました。私は一睡もせずに10日間、父親を探し続けました。どうやって10日間も寝ずに過ごせたのか、皆目わかりません。私は父が大好きでした。彼の死に、私はとても苦しみました。母親は幸運にも家が崩壊する数秒前に外出していたので助かりました。)

1:40 I'm a religious person. I don't hide it. You should never lose faith no matter what happened. After the earthquake, I found strength within myself to return to sports. A lot of experts thought I could not make a come back.

(私は信心深い人間です。何があろうとも、信仰を失いはしません。地震の後、私は競技に復帰できるだけのエネルギーを感じ始めました。周りの人は、私がカムバック出来るとは思っていませんでしたが、、、。)

 1:59 It maintains that a person should never be ***. He should always keep looking forward because life is dynamic. Life is a good thing. When you overcome your problems, you really appreciate life more.

(我々は、ずっと絶望しているわけにはいきません。エミアンはいつも前を向き続けています。人生は山あり谷ありです。そして、素晴らしいものです。何かを乗り越えたとき、その思いは一層強くなります。)

 

地震により父を失い、エミアンは激しい心的ストレスを負います。10日間も眠らずに父を探し続けたことから、いかに家族を大切に思っていたのかが伝わります

復帰は不可能とまで言われましたが、エミアンは競技に戻ってきました。

 

15:36~, 27:58~:  エミアンが跳躍しています。人一倍長い助走から、最後の一歩は極端に短く刻み速い踏切をしています。

 

 世界歴代4位の記録を持ちますが、上にいるのがマイク・パウエルカール・ルイスといったスター選手ですので実力の割には知名度が高くありません。

 

しかし、その人生や人柄、美しい跳躍フォーム。やはり、エミアンが名選手であることに変わりはありません。

 

 

 

 

キム・コリンズ (Kim Collins)⑥

キム・コリンズ (Kim Collins)シリーズ、最終回です。

 

過去記事↓

キム・コリンズ (Kim Collins)① - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)② - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)③ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)④ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)⑤ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

 

目次

1.引退へ

2.おわりに

 

1.引退へ

40歳を過ぎてもなお、100m9秒台、五輪出場などの偉業を成し遂げたコリンズですが、2017年はその走りに陰りが見え始めました。

 

おそらく、競技生活の終盤に差し掛かっているであろうコリンズ。2018年のシーズンをどう過ごすのか…。

 

こちらは2018年3月の記事です。

www.virginislandsnewsonline.com

 

This is it. I can't do it anymore. The body isn't able to do what it is supposed to do. But I am going out in peace — no low notes, no high notes. There will be no comebacks,” Collins told reporters after competing in the 60m heats at the IAAF World Indoor Championships in Birmingham, Great Britain on March 3, 2018.

 

「これで終わりだ。私はもう走れない。体が思うように動かなくなったんだ。でも、気持ちの整理はついているよ。—悲観することもないし、特別喜ぶこともない。今度こそ、お別れだ。復帰はありえない。」コリンズは、2018年3月3日にイギリスのバーミンガムで行われた世界室内選手権で60mの予選を走ったあと、こう報道陣に語った。

Sadly, though, there was to be no farewell bow to his fans later as he withdrew just before the semis, reportedly with an injury.

 

悲しいことだが、彼が準決勝を前に危険を申し出たため、ファンにとっての引退レースはなかった。後に、コリンズは怪我をしたと報じられた。

 

このように、コリンズは室内選手権で怪我を負い、そのまま引退をほのめかします。

 

実際のレース後のインタビュー映像も見ましょう。

www.youtube.com

 

0:50~: will you retire still or will you just keep going?

"I have to stop. I mean I want to. A lot of persons were upset when they heard that, but yeah it's time. I'll really definitely not going to do all this. I don't think I can do it."

 

引退するつもりですか?それとも現役を続行しますか?

「もう辞めないとね。というより、もう辞めたい。これを聞いて驚く人がたくさんいた。でも、もうその時が来たんんだ。私が走ることはもうないだろう。それが可能だとはもはや思えないんだ。」

 

このように、記事やインタビューから見るに、コリンズの引退は決定的なように見えます。

 

しかし、コリンズは6月に行われた競技会に再び姿を見せます。 

 

室内競技会では故障に終わったので、最後にきっちりとレースを終えたかったのだと思います。

www.youtube.com

 

ゴールデン・スパイク・オストラヴァは過去にウサイン・ボルトも出場した大会ですが、選手の顔ぶれを見る限りレベルはあまり高くありません。

 

10.41(-1.3)で優勝。全盛期のコリンズからすれば物足りないですが、それでも立派なタイムです。

 

レース後のインタビューもあります。

www.youtube.com

 

0:01:Kim COllins, emotional last start in Ostrava, probably?...,so and what are your feelings?

0:06:Well, I mean definitely it was the last and I was happy to come out here, have a great race, finish the race. I was just able to show if that I appreciate all ??? support over the years.

 

さあ、キム・コリンズ選手。悲しいことですが、オストラバにて最後のレースだったことでしょう。 今の心境は?

ええ、間違いなくこれが最後だ。素晴らしいレースができてうれしいよ。長年に渡るサポートへの恩返しができてよかった。

 

0:17: What was your thinking ??? when you are starting from the blocks. Did you think of this is maybe my last start?

0:24:Yes, it is. Definitely my last and I just wanted to calm again and I finished and, you know, the guys came out and came to show the support and, you know, push me along to what I'm going on to next in my life.

 

 スタートを切るときは何を考えていましたか?「これが最後だ」と思いましたか?

もちろん、これが最後だと思ったよ。落ち着いてからスタートを切ってゴールできた。レース後はファンが私のもとへ駆け寄ってきたので、本当に皆さんに支えられてここまで来たんだな、と感じたよ。そして、彼らのサポートゆえに私は次のステージに進む勇気をもらえたよ。

1:23:... and I know my coach is happy that I'm gonna come home now I'll be husband and, you know, it's time to move on to begin better things. 

コーチ(コリンズの妻?)はとても喜んでいると思う。私は家に帰って、普通の夫に戻るんだ。今後は、もっと他に自分がするべきことに集中していこうと思うよ。

 

間違いなくこれで引退のはず。

 

しかし、コリンズはまたも7月の競技会に出場しています。

 

ダイヤモンドリーグ、第11戦・第12戦にロンドン大会に出場。不正スタートで失格。

https://www.diamondleague.com/fileadmin/IDL_Default/files/documents/2018/London/Results.pdf

 

何度も、引退宣言をしてはレースに出続ける、、、

 

私が確認した限りでは、これが最後のレースですがニュースにならない小さな試合に出ている可能性もあります。

 

本当に完全引退したのかは、まだ疑問です。なので、来年も期待を持ちながら注目していきたいと思います。

 

2.おわりに

長編になりましたが、これで終了です。

 

たくさんのスプリンターを見てきましたが、コリンズはその中でも極めてユニークな存在です。

 

40歳を過ぎても、数々の偉業を成し遂げた選手としての実績はもちろんのこと、一国の英雄でありながら、国とのトラブルに巻き込まれたり、引退をすると言っては復帰を繰り返したり...

 

本当に話題に事欠かない選手です。

 

2018年がコリンズ最後のシーズンなのか。

 

答えはまた来年...。

 

《参考文献》

Czech Republic - ゴールデン・スパイク・オストラヴァ2016(2018年11月8日アクセス)

キム・コリンズ (Kim Collins)⑤

キム・コリンズ (Kim Collins) シリーズもいよいよ終盤です。

 

前回はナショナルチームへの復帰と2015年のシーズンを追ってきました。今回はリオデジャネイロ五輪が開催された2016年以降のシーズンを見ていきましょう。

 

過去の記事はこちらです↓

キム・コリンズ (Kim Collins)① - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)② - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)③ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)④ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

 

目次

1.2016年

2.2017年

3.まとめ

 

1.2016年

2015年に続き、2016年のコリンズも衰え知らずの活躍を見せます。特筆すべきは、100mで40歳にしてナショナルレコードの9.93(+1.9)を叩き出したことです。

 

www.youtube.com

 

タイムにも出ているように、後半30mのキレのある走りは完全にトップスプリンターの動きです

 

これは、2つの意味で驚異的な記録だと思います。1つには、40歳以上の選手が出した初の9秒台であること。もう一つが40歳にしてスプリント種目で自己ベストを更新したことです。

 

100mや200mなどを専門とする選手は概して20歳台の前半から後半にかけてピークを迎えます。中には、高校時代が生涯ベストという選手も少なくありません。個人的な見解ですが、若いころに苛烈なトレーニングを行うトップ選手ほど、20歳台でその絶頂期に至るように思います。

 

過去の記事でも見てきたように、コリンズは20年以上も前から世界の第一線で競技をしてきました。そのような選手が、40歳を過ぎてなお自己記録を更新することは極めて稀なケースと言えます。トップ選手だけではなく、一般の選手ですらこれは例外ではありません。

 

kfor.com

 (2018年10月19日アクセス)

 

I’ve been trying to retire for the longest while, but each time I think about that I keep running faster — and you think that the best is yet to come,” Collins told CNN.

“I felt good and confident. (中略)"

“I’m looking forward to getting it right many more times.”

 

「長い間、引退の二文字は頭にあったよ。でも、その度に「これ以上速く走ることは本当に不可能なのか?」と自問自答してきた。ーそして、まだ私の全盛期は来ていないと感じたんだ。」コリンズはこう語った。

「気分も優れているし、自信もある。(中略)」

「私はまだまだやれる。それをこれからも、何度でも証明し続けたい。」

 

また、コリンズは息の長い選手生活について次のように答えています。

 

When asked about the secret to his longevity, Collins told CNN: “If there was a secret, I wouldn’t tell it. I would sell it.”

The secret — if there is one — seems to lie in his motto: “You just keep going and going and definitely you’re going to go until your body cannot go anymore.”

And that’s exactly what he’s going to do.

 

CNNのインタビューにて、長く一線で競技できる秘訣を尋ねると、コリンズはこう言った。「もしも何か特別な秘訣があったとしても、絶対に話さないよ。売るのなら良いけどね。」

秘密ーもしそのようなものがあるとしたらーそれはコリンズのモットーに表れているのかもしれない。

「本当に、絶対に、自分の体が限界だと音を上げるまで、挑戦し続けるんだ。」

これはまさに、彼がやろうとしていることだろう。

 

陸上競技はとても繊細なスポーツです。本人が持つ素質に加えて、コーチや練習環境など無数の要素が絡み合って一人の選手が生まれます。

 

もしかしたら、コリンズ本人も40歳を過ぎてもなお走れる理由が分からないもかもしれません。

 

ーーーーー

 

9.93という一線級のタイムを出したコリンズは、もちろんリオデジャネイロ五輪にも出場を果たしました。

 

結果は惜しくも準決勝で敗退。記録は10.12(+0.2)。おそらく、これが最後のオリンピックの100mでしょう。しかし、もしかしたら2020年の東京五輪も・・・そんな期待を抱かずにはいられません。

 

リオデジャネイロ五輪、男子100m準決勝第2組。3レーンを走る。↓

Usain Bolt wins 100m semi-final Rio 2016 Olympics (9.86) - YouTube

 

YOUTUBEにはシーズン初めから室内競技会に出場しているレースもいくつかアップされています。しかし、ここでは自己ベストのレースと五輪の準決勝のレースを紹介するにとどめておきます。

 

2.2017年

40歳にして100m9秒台と五輪出場。これだけのことを成し遂げたコリンズですが、果たして2017年も走り続けるのか・・・

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

御覧の通り、室内の大会に始まり、屋外のレースにも積極的に出場しています。しかしながら、その走りは精細を欠いているように見えます。

 

London 2017 Diaries: Kim Collins could retire at WC in London - RunBlogRun

 (2018年10月19日アクセス)

BASSETERRE (SKN): Kim Collins could retire at the World Championships in London this August, informs organisers. "I think London will be my last. My oldest son now is 19. The kids are growing. But it's been great for the younger generation as it shows that if you take care of your body, you can have a long-lasting career," he said. Collins will be 41 at the World Championships in London.

 

バセテールにてーキムコリンズは今年8月にロンドンで行われる世界選手権を最後に引退する可能性がある。

「ロンドンが私にとって最後の試合になるだろう。長男はもう19歳だ。ほかの子供たちも大きくなった。それでも、コンディションを整えれば長く競技をできることを、若い世代に示すことができてうれしく思っているよ。」コリンズは話した。コリンズは41歳でロンドンの世界陸上を迎える予定だ。

 

 以上のように、2017年になるとコリンズは引退を示唆するようになりました。

この年は調子が上がらず、結局世界陸上100mのスタートラインにコリンズは立つことが出来ませんでした。

 

このままコリンズは引退してしまうのか、続きは次回に。

 

3.まとめ

 2016年は自己ベストをマークし、オリンピックにも出場したコリンズ。しかし、2017年は衰えを隠すことが出来ないシーズンとなりました。

 

コリンズは、どのように競技生活の終わりへ向かっていくのか。

 

次回が最後です。

 

《参考資料》

100 Metres Result | IAAF World Championships London 2017 | iaaf.org

 

最終回はこちら↓

キム・コリンズ (Kim Collins)⑥ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

織田幹雄 (Oda Mikio)

織田幹雄さん。

 

日本人初のオリンピック金メダリストであり、日本陸上界の父。

 

167cm、65kgの身体で1928年のアムステルダム五輪に臨み、三段跳で15m21を跳び優勝。

 

今でも十分に通用する、立派な記録です。

 

www.youtube.com

 

アムステルダム五輪当時の映像です。優勝を決めた後の安堵に包まれた笑顔が素敵ですね。

 

余談ですが、0:34のあたりで写っている日章旗が隣に比べて非常に大きいです。これは、日本選手団が表彰用の日章旗を持参しなかったため、織田氏自身が持ってきた大型の旗を止む無く使ったからです。有名な逸話です。

 

また、織田氏の跳躍フォームを確認できる別のビデオもあります。

 

www.youtube.com

 

0:31~走幅跳の映像です。まだ競技が十分に発展していなかった時代にも関わらず、とても美しい跳躍をしています。きっと現代に生まれても、有力な選手になっていたことでしょう。

 

1936年のベルリン五輪走幅跳で優勝したジェシー・オーエンスと比較すると、織田氏の技術の高さが分かります。

 

www.youtube.com

 

ジェシー・オーエンスは原始的なフォームにも関わらず、天性のバネを活かして人類初の8mを跳んでいます。オリンピックで4冠を成し遂げたオーエンスは、特にアメリカ人に多大なる影響を与え、いまでも彼を尊敬するスポーツ選手は絶えません。

 

オーエンスが歴史に残る名選手であることに変わりはありません。しかし、技術レベルを見ると織田幹雄氏、あるいは故南部忠平氏の方が2歩も3歩も先を行っていたように思います。

 

自分が持つ容量を活かす術を徹底的に考え抜き、結果を残す。織田氏からは、今も日本人に通ずる大切な精神を垣間見る事が出来ます。

 

《参考資料》

Mikio Oda Bio, Stats, and Results | Olympics at Sports-Reference.com (2018年10月9日アクセス)

 

キム・コリンズ (Kim Collins)④

キム・コリンズ④です。

 

前回まで見てきたように、コリンズと国との間には長年に渡り大きな溝がありました。その確執は深刻なもので、2013年までの状況を見ると和解は到底不可能に思えました。

 

しかしながら、コリンズは2015年の世界陸上北京大会ナショナルチームに復帰しているので、ある程度の決着はついたのでしょう。

 

今回はいかにしてコリンズがチームに復帰したのかを見ていきます。

 

過去記事はこちらです。↓

キム・コリンズ (Kim Collins)① - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)② - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

キム・コリンズ (Kim Collins)③ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

 

目次

1.ナショナルチームに復帰

2.2015年

3.まとめ

 

1.ナショナルチームに復帰

2013年は逮捕や兄の殺害事件など不幸が続き、不穏な年となりましたが、2014年のコリンズはどのような生活を送っていたのでしょうか。

 

IAAFの公式サイトによると、コリンズは2014年に60m(屋外)と150m、両リレーで自己ベストを出しています。以上のことから、2014年のシーズンもコリンズは積極的に試合に出ていたことが分かります。特に、60mは6.48(+0.3)という素晴らしい記録を残しています。

 

さらに、この年にコリンズが母国チームに復帰したことも以下の記事で明言されています。

 

www.bbc.com(2018年9月27日アクセス)

 

Veteran sprinter Kim Collins has indicated that he is likely to perform a U-turn and run for St Kitts and Nevis once again at the Commonwealth Games.  

 

ベテランの短距離選手であるキム・コリンズは、再びセントクリストファーネイビス代表としてコモンウェルスゲームズに出場することを示唆した。

 

このように、2013年には国との関係が泥沼化していましたが、コリンズはチームへの復帰を決断します。なぜ、コリンズはあれほど憤りを感じていたナショナルチームに戻ったのでしょうか。

 

Collins was dropped from the London Olympics after a fall-out over visiting his wife in a hotel and said he would never again represent his country.

But he says his fans have persuaded him to change his mind.

"The fans have stepped up and said 'hey, we want to see you'," said Collins, who is in Glasgow to captain a Commonwealth Select Team at Saturday's International Match at the Emirates Arena.

"I have to acknowledge that because these are the people who make things happen in track and field.

"Based on that, I'm thinking that I really should return and one of the big things is that there is not really a big replacement; nobody has really stepped up to carry things on.

"We have a new executive now, a lot of people have moved on and you have to learn how to forgive.

 

コリンズはホテルにいる妻を訪ねたという理由で、ロンドン五輪のチームから追放された。さらに彼は、二度とこの国のためには走らない、とまで述べていた。

しかし、コリンズはファンが自身の考えを変えたと言う。

「ファンが私のもとにやって来て言うんだ、あなたが走るのを見たい、と。」グラスゴーにてコリンズはこう話す。コリンズは、土曜日にエミレーツ・アリーナで行われる国際大会のコモンウェルス選手団を先導する。

「私はファンの声を聞かなければならない。なぜなら、彼らこそ陸上界にとって真に大切な存在だからだ。」

 

以上のように、国との確執は完全に消えたわけではないと思います。しかし、コリンズにとって優先すべきはファンの存在でした。また。ナショナルチームに戻ることを決断した理由は、他にもあります。

 

"Based on that, I'm thinking that I really should return and one of the big things is that there is not really a big replacement; nobody has really stepped up to carry things on.

"We have a new executive now, a lot of people have moved on and you have to learn how to forgive.

 

それ加えて、私が復帰するべきだと考えるのは、代わりとなる人物が他にいないからだ。皆の前に立って責務をこなす人間が誰もいないんだ。

「重役の面々も変わってきている。でも、多くに人が積極的に新しい体制を受け入れていかないと。」

 

このように、セントクリストファーネイビスにはコリンズの代わりが務まる人物がいないことも、彼に復帰を決めさせた要因です。

 

さて、肝心の試合についてもコリンズは以下のようにコメントしています。

 

Collins, making his fourth successive appearance at the c indoor meeting, will line up in the 150m and is in confident mood.

"I think I have an excellent chance of winning, I don't see why not," he said. "Training has gone very well and I never fear the competition.

"It's a big honour to be captain. The team hasn't won in a while and we really need to get back to being the champion team once more."

 

4大会連続でグラスゴー室内大会に参加するコリンズは、150mに出場する予定だ。そして彼は、自信を抱いている。

「優勝する可能性は十分にある。なぜ、優勝できないことがあろうか、というレベルでね。」、彼は言う。「練習も詰めているし、何も不安要素はないよ。」

「キャプテンに選ばれたことを光栄に思う。チームとしてはしばらく勝てていないが、今回は再び王者に返り咲くべきだと考えているよ。」

 

こちらが、出場した150mの映像です。低い姿勢から、物凄いスピードでコーナーに突っ込んでいますね。15.84で見事優勝。

www.youtube.com

 

また、この年の6月に行われた大会では100mで9.96(+1.0)の自己ベストをマークします。

www.youtube.com

 

 このように、コリンズは2014年も衰え知らずの活躍を見せました。

 

2.2015年

2014年にナショナルチームに復帰したコリンズは、その後も現役を続けます。

 

www.youtube.com

 

www.youtube.com

 

2015年のコリンズは室内の大会に積極的に参加していたようで、YOUTUBEにもかなりの数のレース映像が上がっています。しかも、確認できる限りでは全てのレースで優勝しているので、恐るべき38歳です。

 

また、100mでも自国で行われた試合で9秒台を出しています。

www.youtube.com

 

このまま世界陸上に乗り込んだコリンズですが、残念ながら結果は予選敗退でした。しかしながら、記録自体は10.16(w)と大崩れしていません。

 

コリンズの2015年は、十分に一線でやれることを示したシーズンであったと思います。

 

3.まとめ

今回は、コリンズが母国のチームに復帰した2014年、そしてその翌年のシーズンに焦点をあてました。

 

コリンズは、ファンのため、そして自身がチームを引っ張るべきだという責任を感じ再び母国のために走り出しました。それを目に見える結果、タイムで示すコリンズは本当に皆の模範となるスポーツ選手です。

 

2014年、2015年は充実のシーズンを過ごしましたが、翌年にはリオデジャネイロ五輪が控えています。

 

果たして、コリンズはオリンピックに出場することができたのでしょうか。

 

次回は、2016年以降のシーズンについて見ていきます。しばしお待ちください。

 

続きはこちら↓

キム・コリンズ (Kim Collins)⑤ - 走者の記憶~The Reminds of Runners~

 

《参考資料》

Kim COLLINS | Profile | iaaf.org(2018年9月27日)

Glasgow 2014: Kim Collins eyes return for St Kitts and Nevis - BBC Sport(2018年9月27日)

2015 World Championships in Athletics – Men's 100 metres - Wikipedia(2018年9月27日)

 

生涯現役のアスリート①

マスターズの世界大会も行われているように、陸上競技生涯スポーツとしての側面も持ちます。

 

ふと年齢別の世界記録を眺めていると、その記録には驚くばかりです。記録保持者の中には、往年の名選手の名前も見ることができます。

 

今回は、生涯現役をテーマに記録に挑み続けるアスリートを紹介していきたいと思います。

 

マリーン・オッティ (Merlene Ottey)

五輪で9つのメダル、世界選手権では金メダルを含む15個のメダルを獲得した名スプリンターです。これだけの栄冠を得た後も、走ることへの情熱は衰えず、マスターズの世界記録を次々に更新。100mを40歳で10.99(-1.2)、46歳で11.34(+1.8)、50歳で11.67(+0.9)、52歳で11.96(?)と生涯現役を貫き今も走り続けています。

 

52歳、100mを11.96で走るオッティ

www.youtube.com

 

YouTubeで確認できる限りでは、この2012年のレースが最も新しいものです。しかし、2017年のインタビューでオッティは次のように述べています。

 

"When I look, I see there are other people competing that are 75 to 100 years old, there is no limitation there, so, I'm going to stay running and see what i can do."

 

 「周りを見渡せば、75歳とか100歳とかになっても競技を楽しんでいる人はいます。限界なんてありません。私はこれからも走り続け、自分がどこまでやれるか挑戦していきたいです。」

 

この言葉通り、オッティは今もトラックに立ち続けていると思います。

 

《参考資料》

Merlene OTTEY | Profile | iaaf.org(2018年9月20日

List of world records in masters athletics(2018年9月20日

Meet the People: Merlene Ottey, Seven-Time Olympian and Still an Unstoppable Force(2018年9月20日